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広島地方裁判所 平成元年(ワ)277号 判決 1991年1月28日

原告

藏本育美

外一名

被告

右代表者法務大臣

左藤恵

右指定代理人

橋本良成

外三名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、各原告に対し、金五〇万円及びこれに対する平成元年四月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一以下の事実は、当事者間に争いがないか証拠によって容易に認められるかのいずれかである。

1  原告藏本育美(以下「原告育美」という。)は、昭和六三年一二月一日、前夫との間で、両者間の未成年の子二人の親権者を同原告とする離婚の調停を成立させた。

2  原告らは、右調停成立直後から、同居して、事実上の夫婦として生活してきた。また、原告育美の未成年の子二人も、これに伴い、原告藏本正俊(以下「原告正俊」という。)の事実上の養子として生活してきた。原告育美と未成年の子二人は、住民票上も、昭和六三年一二月三日、原告正俊を世帯主とする世帯に入った。

3  原告らは、平成元年三月七日、広島県竹原市長に対し、両者が婚姻する旨の届出をした。しかし、市長は、民法七三三条の規定に違反するとして、届出を受理しなかった。

4  原告正俊は、これより前、昭和六三年一二月九日、広島家庭裁判所竹原支部に、原告育美の親権に服する前記未成年の子二人を養子にするため、民法七九八条本文の許可を申し立てた。同裁判所は、平成元年四月三日これを却下した。その理由の骨子は、親権者である原告育美と養親となるべき原告正俊とが婚姻する前に養子縁組が成立すると、将来婚姻がなされないままに終ったとき未成年の子の福祉に反する結果を生むおそれがある、というものである。

5  平成元年六月二日、原告らは婚姻し、原告正俊と前記未成年の子二人は、後者が前者の養子となる縁組をした。

二本件は、右事実関係の下で、原告らが、市長による前記不受理及び裁判所による前記不許可により、種々の不利益と精神的苦痛が原告らに発生したとして、被告に対し慰謝料の支払を請求している事案である。

三右請求につき被告の責任原因として原告らの主張するところの概略は、以下のとおりである。

1  民法七三三条が存在しなければ、前記婚姻の届出は受理され、これを前提に前記養子縁組もできたはずであり、したがってまた、前記の不利益や精神的苦痛が原告らに発生することもなかったはずである。

2  民法七三三条は、憲法及び条約に違反する。

3  このような民法七三三条を立法し、これを廃止もしくは改正する立法をしない国会議員の行為及び同条を廃止もしくは改正するための法律案を国会に提出しない内閣の行為は、国の公務員による違法な公権力の行使である。

4  したがって、原告らは、国家賠償法一条一項により、前記損害の賠償を被告に対して請求することができる。

5  仮に、何らかの理由により、国家賠償法一条一項に基づく請求が認められないとしても、そのときは、憲法一一条、一三条、一四条一項、一七条、二四条、二九条三項、九八条、九九条の法意に照らし、原告らは、憲法二九条三項の類推適用により、前記損害に見合う金員を正当な補償として請求することができる。

第三争点

一国会議員又は内閣が民法七三三条の立法をし、同条を改正又は廃止する立法をしないことが、国家賠償法一条一項の違法行為に該当するか否か。

二原告ら主張の損害は、憲法二九条三項を根拠とする損失補償の対象となるか。

第四争点に対する判断

一国家賠償法一条一項に基づく請求について

1  原告らの主張

(一) 民法七三三条は、父性の重複の回避を理由として、女子に対して再婚禁止期間を定めるものであるとされている。しかし、同条は男尊女卑の儒教的道徳観に基づき、女性の再婚を嫌忌する父権的思想に依拠して女性に対してのみ再婚を制限するものであるというべきである。父性推定が重複しても、再婚時において懐胎していなかったことの証明あるいは親子鑑定等によって推定を覆すことができるから、父性推定の重複を回避することをもって女子に対する再婚禁止期間を定めることを根拠付けることはできない。

(二) 仮に、父性推定の重複を回避するため、女子に対して再婚禁止期間を定める必要があるとしても、民法七七二条との関係で、再婚禁止期間は前婚解消後一〇一日あれば足り、六箇月の再婚禁止期間を定める民法七三三条は、必要以上に長期間女子の再婚を制限するものである。

(三) したがって、民法七三三条は、女子に対してのみ婚姻の自由を制限するもので、憲法一三条、一四条一項、二四条、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(昭和六〇年条約第七号)前文、二条、一五条、一六条並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五四年条約第七号)二三条の規定に違反するものである。

(四) よって、民法七三三条を立法し、同条を廃止もしくは改正する立法をしない国会議員の行為及び同条を廃止もしくは改正するための法律案を国会に提出しない内閣の行為は、国の公務員による違法な公権力の行使である。

2  立法行為の違法性の判断基準

(一) 右のとおり、原告らは、違憲(条約違反も含む。以下同じ。)の立法を行い、あるいはこれを改廃しないで放置する国会議員又は内閣の行為は国家賠償法上も違法となることを当然の前提として、民法七三三条が違憲である旨を主張し、これに基づき賠償の請求をしている。

(二) しかし、当裁判所は、法規の違憲性と立法行為(立法不作為を含む。以下同じ。)の国家賠償法上の違法性との関係につき、原告らが当然の前提としている立場を採用することができない。当裁判所は、ある法規の違憲性と当該法規に関する立法行為の国家賠償法上の違法性(憲法一七条の問題としていうならば、不法行為性)とは本来異なる問題であり、ある法規が違憲であることを理由に当該法規に関する立法行為が国家賠償法上違法であるとされるためには、法規の内容が憲法等の一義的な文言に違反していることが必要であると解するからである。

(三) 右のように解する理由につき、まず国会議員に関して述べると、当裁判所は、最高裁判所が示した次の解釈に従うべきものと考える。

国家賠償法一条一項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである。したがって、国会議員の立法行為(立法不作為を含む。以下同じ。)が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって、当該立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反する廉があるとしても、その故に国会議員の立法行為が直ちに違法の評価を受けるものではない。

そこで、国会議員が立法に関し個別の国民に対する関係においていかなる法的義務を負うかをみるに、憲法の採用する議会制民主主義の下においては、国会は、国民の間に存する多元的な意見及び諸々の利益を立法過程に公正に反映させ、議員の自由な討論を通してこれらを調整し、究極的には多数決原理により統一的な国家意思を形成すべき役割を担うものである。そして、国会議員は、多様な国民の意向をくみつつ、国民全体の福祉の実現を目指して行動することが要請されているのであって、議会制民主主義が適正かつ効果的に機能することを期するためにも、国会議員の立法過程における行動で、立法行為の内容にわたる実体的側面に係るものは、これを議員各自の政治的判断に任せ、その当否は終局的に国民の自由な言論及び選挙による政治的評価にゆだねるのを相当とする。さらにいえば、立法行為の規範たるべき憲法についてさえ、その解釈につき国民の間には多様な見解があり得るのであって、国会議員は、これを立法過程に反映させるべき立場にあるのである。憲法五一条が、「両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。」と規定し、国会議員の発言・表決につきその法的責任を免除しているのも、国会議員の立法過程における行動は政治的責任の対象とするにとどめるのが国民の代表者による政治の実現を期するという目的にかなうものである。との考慮によるのである。このように、国会議員の立法行為は、本質的に政治的なものであって、その性質上法的規制の対象になじまず、特定個人に対する損害賠償責任の有無という観点から、あるべき立法行為を措定して具体的立法行為の適否を法的に評価するということは、原則的には許されないものといわざるを得ない。ある法律が個人の具体的権利利益を侵害するものであるという場合に、裁判所はその者の訴えに基づき当該法律の合憲性を判断するが、この判断は既に成立している法律の効力に関するものであり、法律の効力についての意見審査がなされるからといって、当該法律の立法過程における国会議員の行動、すなわち立法行為が当然に法的評価に親しむものとすることはできないのである。

以上のとおりであるから、国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであって、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない(最高裁判所昭和六〇年一一月二一日第一小法廷判決民集三九巻七号一五一二頁)。

(四)  次に、内閣については、原告らの主張するように、行政権を行使する内閣が、ある法律案の提出権限を行使しないという立法行為について、個別の国民に対する関係での法的義務を負い、国家賠償法上の違法の評価を受ける可能性があるとしても、国会を国の唯一の立法機関と規定している憲法四一条の趣旨からすると、このような法律案に関する立法行為につき第一次的に責任を負うのが国会議員であることは明らかである。したがって、少なくとも、先に述べた観点から国会議員の立法行為が国家賠償法上も違法と評価される場合、すなわち当該法律の文言が憲法等の一義的な文言に違反しているような例外的な場合でない限り、これに関する内閣の立法行為が国家賠償法上違法と評価されることもないというべきである。そして、このことは、国会の議決する法律案のほとんどが内閣の提出に係るものであるかどうかという立法過程の実情いかんによって左右されるものではない、と解すべきである。

(五)  右の立場に立つ限り、民法七三三条についての国会議員又は内閣の立法行為の違法を理由とする原告らの国家賠償法一条一項に基づく損害賠償請求の当否を左右するのは、同条が憲法等に違反するかどうか自体ではなく、これが憲法等の一義的な文言に違反するかどうかである。そこで、以下においては、民法七三三条が憲法等に違反するかどうか自体についてではなく、同条が憲法等の一義的な文言に違反するかどうかについて検討する。

3  民法七三三条の違法性判断基準該当性(同条は憲法等の一義的な文言に違反するか)

(一) 憲法一四条一項、二四条について

原告らは、民法七三三条が、憲法一四条一項、二四条に違反すると主張するので、まずこの点について判断する。

民法七三三条一項は、「女は、前婚の解消又は取消の日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。」と規定しており、女性についてのみ再婚を制限するものであることは明らかである。他方、憲法一四条一項は、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的経済的又は社会的関係において、差別されない。」と規定し、憲法二四条二項は、これを受けて、「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」と規定している。したがって、女子についてのみ、再婚を制限する民法七三三条は、一見、憲法の右各規定に違反しているようにも見える。しかし、これらの規定は、どちらも、合理的な理由に基づき男女間で扱いを異にすることまで禁止するものとは解されない(民法七三一条参照)。また、憲法二四条一項は、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、」と規定しているけれども、この規定も婚姻の要件として両性の合意以外の要件を定めることを一切禁止しているものとまでは解されない。そうすると、憲法一四条一項、二四条は、婚姻の自由に対して男女の生理的な条件の違いを根拠として異なる制限を加えることを一切禁止するものではなく、そのような男女間での異なる取扱いは、合理的な理由を有する限り、憲法のこれらの規定に違反するものではない。そして、合理的な理由という概念が、そもそも価値判断を含む多義的な概念であって、必ずしも一義的に定まる性質のものではないことをも考慮すると、民法七三三条がこれらの憲法の規定の一義的な文言に違反しているといえるためには、女性に対して六箇月の再婚禁止期間を定めることが、一見極めて明白に合理性がないと判断できるような場合でなければならないと解される。

しかし、民法七三三条は、女性のみが懐胎するという生理的な理由に基づき立法されたもので、専ら父子関係の確定の困難を避けることを立法趣旨とするものと解されるから、これを前提に考察すると、社会構成の基礎となる夫婦を中心とする家族関係を明確にすることが国家の重要な政策の一つであることはいうまでもなく、また、女性のみが懐胎するということが厳然たる事実である以上、原告らが主張するように、医学の進歩等に伴い、妊娠の事実の確認や父子関係の確定に関する自然科学的な技術や知見が進歩していることを前提としても、このような男女の生理的な違いを理由として女性に対してのみ六箇月の再婚禁止期間を定めることには一見極めて明白に合理性がない、とまで判断することはできない。

また、原告らは、再婚禁止期間を定めるとしても、その期間は、法律上の嫡出推定が重複する一〇一日間に限定すべきであるとも主張している。しかし、民法七三三条は、父子関係の確定の困難を避けることを目的とするものではあるが、必ずしも法律上の嫡出推定の重複を避けることのみを目的とすると解すべき理由はないから、法律上の嫡出推定の重複する期間を超える再婚禁止期間を定めたからといって、一見極めて明白に合理性がないとまではいえない。

したがって、民法七三三条の規定は、憲法一四条一項、二四条の規定の一義的な文言に違反するとまではいえない。

(二) その他の憲法等の規定について

原告らは、民法七三三条が憲法一三条に違反するとも主張する。しかし、憲法一三条は、基本的人権の保障と公共の福祉との調和の理念を抽象的に述べたものに過ぎないから、民法七三三条の規定が、憲法一三条の規定の一義的な文言に違反するとまではいえないことは明らかである。

さらに、原告らは、民法七三三条が、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(昭和六〇年条約第七号)前文、二条、一五条及び一六条並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五四年条約第七号)二三条に違反するとも主張する。しかし、これらの条約の規定が、締約国に対して、合理的な理由を有する男女間での取扱いの相異をも禁止し、あるいは「婚姻をしかつ家庭を形成する権利」に対して合理的な理由による制限を加えることまでも禁止していると解すべき理由はない。したがって、民法七三三条が、これらの条約の規定の一義的な文言に違反しているともいえないことは、憲法一四条一項、二四条について既に述べたところから明らかである。

(三) 結論

以上のとおり、民法七三三条を立法し、これを改廃しなかった国会議員又は内閣の行為に国家賠償法上の違法性があるとはいえない。したがって、その余の点の判断のいかんにかかわらず、国家賠償法一条一項に基づく原告らの請求には理由がない。

二憲法に基づく国家補償の請求について

1  原告らは、民法七三三条が存在することを原因として精神的苦痛を含む不利益を受けたと主張し、この不利益については、憲法一一条、一三条、一四条一項、一七条、二四条、二九条三項、九八条、九九条の法意に照らし、憲法二九条三項の類推適用により、補償がなされるべきであると主張する。

2  その際、原告らが原告らに生じた不利益として主張するところは、次のとおりである。

(一) 原告らは、原告育美の再婚禁止期間の間、事実上婚姻していたにもかかわらず、婚姻の効果に関する法の保護を受けることができず、このこと自体により不利益を被った。

(二) 原告らは、婚姻の効果に関する法の保護を受けることができないということに伴い、社会から正当な夫婦としての評価を受けることができず、名誉・信用・子らの教育監護等社会生活全般にわたって不利益を被った。

(三) 原告らは、原告育美の再婚禁止期間の間、原告正俊がその間に死亡した場合のことを考え、日々計り知れないほどの精神的苦痛を味わった。すなわち、原告らは、この場合、原告育美と子二人は、法的に「藏本」の氏を称することができなくなり、また、婚姻関係、養子縁組関係の存在を前提とする法の保護と社会の評価を受けられないままの生活を強いられることにもなり、さらに、子二人は通学生活で通称として使用していた「藏本」を使用する基盤をも失うに至ることをおそれ、はなはだしく苦しまざるを得なかったのである。

3  しかし、ある法規が存在することにより特定の個人に不利益(当該法規が存在しない場合に比べての不利益)が生じたとしても、そのことだけで当然当該不利益に対し補償がなされるべきことになるわけではない。これはいうまでもないことである。法規は、それが存在することにより自己の望まない状態に陥る個人に対し、多かれ少なかれ、精神的苦痛を含む不利益を強いるものであり、このような不利益すべてにつき国家や公共団体が補償すべきものとするのが憲法二九条三項の法意であるとは、とても解することができないからである。発生した不利益につき同条項を根拠に補償を求め得るとされるためには、少なくとも、当該不利益が一般に受忍すべきものとされる限度を越え、当該個人に課せられた特別の犠牲であると認められること、換言すれば、当該不利益が、当該個人のみによってではなく最終的には社会を構成する全員によって負担すべき性質のものであるとまで認められることが必要であるというべきである。そして、ある不利益を右の意味での特別の犠牲として認めるか否かは、当該不利益の内容、性質、程度、同様の不利益を受ける個人の範囲、当該犠牲により得られる社会全体の利益等々を総合的に考察して決定する以外にはないのである。

4  右の観点に立った場合、

(一)  原告らに発生した不利益は、主張による限り、決して小さなものではなく相当に大きなものではあるけれども、その中心は精神的苦痛であり、精神的苦痛というものは、その性質上、同一又は同様の状況から発生する場合にも、人によっていかようにも大きさが異なり得るものであるから、法的問題として前記の意味での特別の犠牲の問題を考える際には、原告らの置かれた状況から通常生じるであろうと想定される範囲のもののみを基準とせざるを得ないこと

(二)  (一)を前提にする限り、原告ら主張の不利益は、事実上再婚しながら六箇月間という限られた期間法律上の再婚を待たされること及びこれと密接に結び付く事柄から通常生じ得る範囲内のものであって、それ以上に出るものではないこと

(三)  このような不利益と同様の不利益は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過しない間に事実上の再婚をしようとする女性(ただし、民法七三三条二項の場合は除かれる。)及びその相手となる男性すべてに生じ得るものであること

(四)  原告ら主張の不利益中の相当部分は、厳密にいえば、再婚禁止期間中婚姻できなかったこと自体によって生じたものではなく、右期間の経過を待つことなくあえて事実上の婚姻をしたことによって生じたものであり、その限度では自ら招いたものであるともいい得ること

(五)  民法七三三条の立法趣旨は専ら父子関係の確定の困難を避けることにあると解され、右立法趣旨自体は家族関係の明確化という国家の重要な政策から見て決して軽視すべきものではないこと

等々を総合したとき、原告ら主張の不利益を前記の意味での特別の犠牲とまで評価することはとてもできないという以外にないのである。

5  したがって、その余の点の判断のいかんにかかわらず、原告らの国家補償の請求も理由がない。

第五結論

以上によれば、原告らの請求に理由がないことは、その余の点につき判断するまでもなく、明らかである。そこでこれらを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山下和明 裁判官小林久起 裁判官飯田恭示)

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